
1.現場の違和感 ― 銃を持つ警察官がクマを駆除しない?
住宅地や登山道、河川敷などで“クマが出た”という報道が増えています。例えば ヒグマ の住宅侵入事件など、地域住民にとっては「もし警察官が近くにいたら」…と思わずにはいられない状況です。 s-bi.com+2pref.tottori.lg.jp+2
しかし、実際には警察官が即座にクマを射殺・駆除するケースは極めてまれです。なぜなのでしょう?銃を所持しているはずの警察官が、なぜ“駆除”の主体になれないのか。それを理解するためには、法律・制度・運用の四隅を見ていく必要があります。
2.法律上の枠組みとその制約
■ 鳥獣保護管理法と「駆除」の所管
まず、クマ対応において鍵を握るのが 鳥獣保護管理法(鳥獣保護法)です。法律では、野生鳥獣をむやみに殺傷することを原則として禁止し、有害鳥獣駆除や捕獲には都道府県知事の許可など、さまざまな手続きが必要です。
「駆除」には、通常、猟友会の猟銃による捕獲・駆除が想定されており、警察官が単独でクマを射殺できる“常態”を前提としていません。 X (formerly Twitter)+1
■ 警察官の法的根拠:警職法第4条等
一方、警察官が人命・財産を守るために必要な措置を講じることができるとしているのが、 警察職務執行法(警職法)第4条第1項です。これにより、緊急避難的に“銃を使用させる命令”を警察がハンター(猟友会)に出すことは可能とされています。 pref.tottori.lg.jp+1
ただし、これは“駆除を推進するための常態的措置”ではなく、「人の生命・身体に危険があり、急を要する場合に限り必要最小限度で」実施できるものと解されています。 env.go.jp
■ まとめると
鳥獣保護法が原則として野生鳥獣の殺傷に制限をかけている。
警職法は警察官が関与できるが、対象は“人命緊急”の限られた状況。
結果として、警察官が銃を持っていても「クマを駆除する主体」にはなりづらいという制度構造があります。
3.運用・実務の壁 ― 銃を持っていても出動できない実態
■ 専門性・装備・訓練のギャップ
クマは大型野生動物であり、獲物としての生体イベント、警戒心、逃走力、攻撃力すべてが高いです。射撃対象として考えると、警察官が日常的に対応する銃器とは別物の技能・装備が要求されます。実際、北海道警察などでは「駆除できる態勢がない」とコメントされています。 s-bi.com
そのため、多くの場合、警察は“出没・危険情報の収集・現場封鎖・住民避難誘導”という役割にとどまり、実際の“撃つ”“駆除する”行動は猟友会に委ねられるという構図です。 害獣駆除対策センター+1
■ 主体のあいまいさと責任の所在
クマ駆除をめぐっては「自治体職員・警察官・猟友会・住民」の4者以上が登場し、それぞれの役割が明確でないケースが問題になります。北海道の砂川市では、警察の指示を受けて駆除した猟師がその後銃所持許可を取り消されるという事例も。 HUNTER(ハンター)
こうした実務上の“損得・責任リスク”が、警察・猟友会双方に慎重姿勢を生んでいると言えます。
■ 住居地域での規制・禁止事項
鳥獣保護法上、住宅街・住宅密集地域等での猟銃使用には慎重な制限があります。例えば、鳥取県の事例では「住宅が集合している地域等に現れたクマを、警職法に基づき駆除することができる」という見解が示されていますが、これも“例外的・緊急的”なものです。 pref.tottori.lg.jp
4.地域・住民・行政の役割と期待される体制
■ 住民の備えと“自助・共助”
クマ対策はただ“駆除”に任せきりにできません。住民一人ひとりが、ゴミ管理・登山・山菜採り・住宅周辺の防護柵設置・出没情報共有など、自衛措置を講じる必要があります。環境省のマニュアルも「出没時の第一報対応」「周囲との連携」に重きを置いています。 env.go.jp
■ 行政・自治体が担うべき機能
自治体は、クマの出没データを地図化し、危険度の高い地域には警報・柵・侵入防止策を講じるべきです。また、駆除が必要な場合の予算・許可・機材・専門人材の支援が重要です。
さらに、猟友会の高齢化・人材不足という課題に対して、行政が“駆除支援隊”の育成・補助を行う必要があります。報道では「ハンターが高齢化し、民間頼みの構図が限界」と指摘されています。 s-bi.com
■ 警察・猟友会との連携強化
警察は“封鎖・住民誘導・状況把握”をリアルタイムで行い、猟友会との合同訓練・専門砲撃隊の配置、住民避難・緊急発砲許可の制度整備が必要です。行政・警察・猟友会が明確に役割分担し、日常的な演習と情報共有がカギとなります。
5.“銃を持っているのに撃てない”というジレンマを正しく理解する
銃という物理的な“武器”を持っていても、それが即座に“クマを駆除できる能力”には直結しない――このギャップを正しく理解することが大切です。
“持つ”=制度・権限・訓練・装備・現場連携すべてが揃っていなければ、“駆除”という結果には至らない。
また、“駆除”が地域の安全を保証する最良策ではなく、保護・共存・予防という観点も同時に重要です。
さらに、事件が起こった後の“責任追及”が制度的な萎縮を生むという実例もあります。そうした構造的な課題を解決しない限り、警察官が銃を持っていても“撃てない状況”は続く可能性があります。
6.将来への提言 ― 地域安全と野生動物共生の架け橋として
◎ テクノロジーの活用
クマの活動を早期に察知するドローン・赤外線カメラ・AI分析などを活用し、警察・自治体が“プロアクティブ”に動ける体制を整える。
◎ 駆除から「予防+共生」へ
単にクマを“撃つ”のではなく、クマが出ない・近づかない環境を整えること。防護柵・緩衝帯整備・餌付け禁止・住民教育。
◎ 制度改革と人材育成
猟友会だけに頼らない駆除体制として、若手隊員・地域ボランティア・自治体職員の訓練・資格整備。警察との合同訓練の全国展開。
◎ 住民参加の情報共有
出没マップの公開、緊急避難訓練、学校・自治会でのクマ出没対応ワークショップなど、住民を主役に。住民の“備え”が地域全体の安全を強固にします。
7.結びに ― 銃では守れない「社会の弱点」を見つめて
銃を携帯しているはずの警察官が、クマを駆除できない――この事実は決して“装備が悪い”とか“やる気がない”という単純な話ではありません。
そこには、制度の複雑さ、専門性の壁、地域体制の未整備、住民の備えのあり方など、複雑な構図が絡んでいます。
そして、私たち一人ひとりが、ゴミの管理を徹底したり、出没地域を避けたり、地域で協力することで、この“弱点”を補うことができます。
警察官が銃を持っていても対応できないクマ被害。だからこそ、制度を理解し、地域として備え、「共に暮らす」社会への設計が今、求められているのです。

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